浮遊する無名作家の浅慮

【小説家になろう】書籍化の打診が来て、それでも駄目だった話。

【小説家になろう】書籍化の打診が来て、それでも駄目だった話。


時は去ること、3ヵ月前。夏もいよいよ暑さを増して行こうかという最中、ふと私の所に訪れたのは、一通のメールでございました。

「くらげさんの、『(前略)あまりもの冒険譚!』を、是非書籍化させてください!」

この時はやはり、感動に打ち震えたというものです。

『小説家になろう』で活動を始めて、苦節4年。周囲の方々が次々と小説家になっていく最中、残念ながらこれまでの私には、こういったお仕事のお話はあまり来ておりませんでした。

はじめは何かの間違いではないかと思いました。ある程度のポイントを稼いでも、そういったお話は一切来ていなかったもので。

ああ、私の書く作品はまだ、あまり商業で通じるものでは無いんだなあと。もう少し頑張らないと駄目だなあと常々思っておりましたので、やはり腰が大分、重くなってしまっており。

ところが来たメールの内容がですね。これは小説を書く身として、大変ありがたいお話だったのです。





身に余る程の、お褒めの言葉。

そのメールには、このような事が書かれておりました。

曰く、作品の完成度が高いと。この小説を書籍にして、一緒にヒットを飛ばしたい、と。

実際にお会いしてお話した時も、「よく考えられた、売れる題材」という評価を頂きました。

そこまで嬉しい言葉を頂けたらですね、これはもう立ち上がるしかありませんよ。

やってやろうじゃありませんか。実に20年以上の時間を費やし、これまでに1千万字を超える文章を書き殴り、知識と経験を技術に変えて、自分自身に積んで来たのであります。

……あまり、費やした時間と結果は一致しておらず、やはりそこは寂しい限りなのですが。ええ、やはり。

それでも自ら立ち上げた舞台演劇を通じて、実際に物語に触れた方の感想を聞き、サンドバッグのようにメタメタに殴られながらも、これまで一度も心を折らずにやって来ました。

私ですね、実は書き始めの頃というのは、これはもう周りに厳しい方ばかりでして。

駆け出しの7、8年くらいは、「面白い」と言って頂ける事はそれまでの人生で一度もありませんでした。

クソだとかつまらないとか何が面白いのか分からないというのは、これは言われて当たり前。

脚本家出て来いとキレられたり、時間の無駄だなんて面と向かって言われながら、文章を書いて来ましたよ。ええ。怖かったです。

顔を突き合わせて言われると怖いので、そこはポケベル程度にして頂きたい。是非。

正直、10代も浅いうちの夢を追う学生に、40過ぎのおじ様が寄ってたかって言う台詞では無かったのではないかと。正直な所ですね、今でもちょっぴり思います。

そこは、夢を応援して欲しかった。……いや、私の態度が悪かったのかもしれません。申し訳ありません。深々。

高校時代の部活顧問の先生は、私が小説家を目指さないために、親に直接掛け合いに来た位でしたよ。「あんな作品しか書けない奴に小説家を目指して欲しくない」だそうで。……いやあ。そんなに駄目でしたかね、私。成長の余地もありませんか。

まあ、創作にアツい方が多かったという事でしょう。

これは今となっては、良い思い出ですね。

そんな訳で、普通に物語を作る人達の遥か後方からスタートした私は、これでも必死で勉強してきたのであります。

試行錯誤を繰り返し、何度も実行して失敗することで、それを自分自身の経験に変えていく。誰にも認められず、誰にも褒められない。苦しい作業です。

飽きるほどノウハウ本も読みました。ノウハウ本そのものに歴史的価値が出て来るレベルまで、物語の世界を遡りましたとも。

時は経ち、「なんでまだ商業小説家になってないんですか」「自分が文芸の編集だったら絶対声掛けるのに」といったような、嬉しい言葉もちらほらと頂けるようになりました。いや、ライトノベルの話では無いのですけどね。

いい加減に、勝負しよう。どのジャンルで挑戦しようかと思っていた時、『小説家になろう』を発見しまして。これかと。ライトノベルはまだ知らないけれど、調べてやってみようと。

それから4年。

そのような経緯だったもので、この作品のお声掛けが来た時にはですね。遂に私にも、そんな声が掛かる時が来たかと。これは大変に嬉しかったものです。



8割に楽しんで貰える話を。

初めてのお声掛けだったものですから、私も気合いを入れました。

インターネットで小説を掲載する時は、これは連載という形を取ります。なので、お話そのもののまとまりよりも、一話一話のテンポを重視しなければならない事もございます。

そのような想いがありまして、『(前略)あまりもの冒険譚!』は、一章・二章の引き込みの部分では、ドラマ性よりもコメディに焦点を当て、気楽に次を読んでしまえるようなシーン構成を意識しました。

しかし、本となるとそうではいけない。

何しろ、一巻が売れなければ次は無いのです。一巻分12万字でまとまったドラマを意識した構成にしなければ、ダラダラと続く話を読んで貰えるはずがない。

ならば、今のままでは駄目だ。

こうして私は、まだ出版の話が企画段階の内から、先回りして出版社様に提案するための内容を作る事にいたしました。

『(前略)あまりもの冒険譚!』は、少年漫画を強く意識した作品です。友情・努力・勝利をベースに、恋愛要素やコメディ要素をバランスを考えて投入しています。

もしも一巻分でのドラマを追求するとあらば、これは熱を上げなければなりません。ド派手な戦闘と主人公の熱意が伝わり、緊迫した状況に読者様が打ち震える展開を考えなければならない。

まあそれは以前から構想があるので、良いとして。これを評価するのには、もはや自分だけでは駄目でしょう。

少年漫画は、元々広く楽しく読まれる事を前提に描かれていると感じます。ならば、私一人が面白く感じたとしても、人によって差がある事は明らかです。

……ということで、沢山の方にモニターの協力を依頼しました。

ラノベをよく読む人。ラノベは読まないが、漫画を読む人。どちらも読まない人。文芸寄りの人。雑多に読み漁る人。

10数名のモニターを用意し、プロットを提案し、作品を提示して読んで貰い、正直な感想を頂く。そんな事を繰り返し、微調整していきました。

好き嫌いはあります。だから、全員でなくてもいい。8割に喜んで頂ける作品を作る事ができれば……可能性はあるのではないか。

そうして、提案した作品の評価を頂きました。

そうしながらも、また別の所では、昔編集さんをやっていた方に校正を依頼したりもしました。

以前から友人だったもので、お金の入らない仕事でありながらも協力を頼み込み。快く引き受けて頂きました。

……プロの仕事です。もし売れなくても、印税が入った後でちゃんとお金は払おう。

そう思いながら、内容についての評価を頂き。「探してはみたけど、文句を付ける所が見当たらない」という、個人的にはパーフェクトに近い感想も頂きました。

驚くべきことに、モニターの方からも殆ど全員から、「面白かったです」という感想を頂く事ができました。

間違いなく、過去最高の出来です。

――――いける。……かもしれない。

いや、いける。そう思おう。これで勝負したい。次の会議で、これを提案しよう。ちゃんと本一冊にまとめているのだから、そう悪い事にはならないはず……。

こうして私は、書籍化の打ち合わせを待つばかりの状況になりました。

……そして。

この書籍化のお話は、思わぬ形で終焉を迎える事になりました。



出版社側にも、やむを得ない事情があった。

どこまで話してOKなのか決め兼ねる所ですので、ちょっと詳しくはお話できないのですが。

『(前略)あまりもの冒険譚!』の書籍化のお話は今回、転んでしまいました。

出版社様の都合でございます。

さすがにどうしようもない。

皆さん、私のような末端の者にも丁寧に接して頂き。それが嬉しかっただけに……ただただ、無念でございます。

誰も悪くないですし、本当に仕方がない事でした。

7月~9月という短い期間ではありましたが、この間に全力で動いてまいりました。すぐに本にできる内容も揃えてあります。……しかし、どうやらこれはお蔵入りする事になりそうです。

悲しいですね……。

戦う意志はあります。すぐに書籍として動き出せる内容も用意してあります。……しかし、今回は振り上げた拳を下ろさざるを得ません。

どうにもならないのか、と。

今、そんな気持ちです。



これからも書くよ。

なんだかまとまらないお話になってしまいましたが。一応私ですね、まだ生きております。

9月末から報告を控えていたのですが、出版社様から許可が下りましたので、今回こうして記事も書かせて頂きました。

でも、止めませんよ。話を書くのは。

小説という媒体になるかどうか分かりませんが、物語を作る事は私の人生です。

きちんと、『(前略)あまりもの冒険譚!』も完結させる意志でございます。

……今は少し、無念からペースダウンしてしまっておりますが。

きちんと復活しますので。ええ、必ず。

それでは、頑張ってまいりましょう……!



スポンサーリンク
スポンサーリンク

0 件のコメント :

コメントを投稿