浮遊する無名作家の浅慮

連続テレビ小説。ありがとう、『ひよっこ』。

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連続テレビ小説は通勤時間の関係で、毎朝見てから出社しているのですが。

つい先日の9/30、これまでずっと楽しみにしていた連続テレビ小説『ひよっこ』が終わってしまい、今では何だか若干、ひよっこロスを起こしています。

朝ドラにここまでどハマりする事はこれまで無かったのですけども。今回は少し今までの朝ドラと違って、随分と私好みの内容でした。

というか私、岡田惠和先生の脚本が大好きなんですよ。いや、本当にすごいんですよ。是非おすすめしたいなと思うからこそ、こうして記事を書いている訳であって、ですね。

個人的には、ヒューマンドラマにおいて絶対になければいけない側面が、あたかも無いかのような形でもドラマが成立してしまうところ。ここにですね、何と言いますか私は、強い美学を感じるのです。

せっかくなので今回は、そのようなお話をさせて頂きたい。





 人の根底にあるドラマの、本当の姿。

初めて岡田惠和先生を知ったのは、『夢のカリフォルニア(2002年)』位からだと思うのですが。

あの時はまだ、脚本が誰だなんて考えて見ておりませんでした。なので作品に触れながらも、名前を知ったのはもう少し後になります。

前々から、この話良いなあ、こういうの好きだなあ、と思っていた脚本が岡田惠和先生の事が多いと知った私。

ある程度物語の構造についての理解が進んだ後、再び度肝を抜かれたのが『最後から二番目の恋(2012年)』でした。

……というお話をするためには、まず『ドラマ』って何だ、という所からお話をしなければなりますまい。

『ドラマ』という言葉には多面性があり、或いは演劇の事そのものを示していたりもするのですが……ひとまずですね、ここではドラマをヒューマンドラマの略称として、『人間らしさを主題として描いた脚本』と定義させて頂きたい。

さて、ドラマはですね。人間同士の物語という構成上、基本的には『大きな』『劇的な』事件が起こる事によって、ストーリーを形作っているものがほとんどだと、私は考えているのですが。

そうなるとやはり、劇的な感情の変化を追い掛けて行かなければなりません。激しい緊張や感動を呼び起こすためには、やはり強い舞台設定が必要になってまいります。

そのような側面があるがために、殆どの脚本には、登場人物に大きな課題があったり、壁があったり、或いは物語中で強烈な事件が巻き起こったりして、登場人物を波乱の渦に巻き込んで行くと。

このようなものが多いと思うのですね。

ところがですね。岡田惠和先生の脚本には、こういった『強烈な背景』が無いことがあるんですよ。

今回の『ひよっこ』が、まさにそうで。

『ひよっこ』の主人公である谷田部みね子は、なんと物語の最初から自分の境遇に満足しているんですよね。

ただ毎日を、しっかりと生きていくのだと。そこに何の不安も迷いもない。芯の強い人物として描かれています。

一作の最初から最後まで、彼女の内面に関わる重大な問題って、それほど出て来ないんですよね。父親が居なくなってしまったりするんですが、彼女自身に問題がある訳ではなかったりもする。

父親が居なくなるなんて劇的なテーマを扱うなら、やはりその父親が居なくなった原因が主人公にあるだとか、父親と娘に未来の約束があったりとか、後の劇的な展開を作るために、何らかの強いシーンを描き『がち』だと思うのですが。

もうね、まったく無いんですよ、そういうのが。

みね子はずっと優しい良い子だし、普通の人生で起こるような出来事を超えて、誰かと特別な関係を持ったりもしないんですよね。

『劇的な展開』というのがない。そんな事起こらないでしょ普通は、というのが無いんですよ。この時代ならあってもおかしくない出来事ばかりが起こるんですよね。

では面白くないのかと言われると、全くそうではない。むしろ、そういうのは無い方が良いんじゃないかと思えてくる。

劇的な事件、展開、そういうものが無いのに、登場人物の表情はころころ変わるし、日常に振り回されたり、人並みに悩みがあったり、幸せであったりする。

これはすごい事だと常々思うんですよ。普通、『○○がテーマの話を書こう』という風になるとしたら、そのテーマって濃い味わいにしたいと言いますか、なんだかすごい設定にしたくなるじゃないですか。

そういうテーマが人知れず隠れていて、リアルな日常の中にひっそりと共存している美学。

ありきたりな強いドラマにしない美学。

そう、これを美学だなあと、私は感じるという訳なのです。


 「登場人物がみんな良い人」っていう、ファンタジー。

それとですね。特に『ひよっこ』はそうだなあと思うのですが、登場人物が皆良い人なんですよね。

個性があり、それぞれ考えることが違いながらも、特別悪い事を考える人というのが存在しないのだと。皆が良い人だから、優しいストーリー展開になります。

皆が皆のことを思い合っていて、大切にしている。そんな美しい構成で、話は進んで行きます。誰一人として陰口を言ったり、卑屈な行動を取ったりしない。

正直、現実世界では絶対に有り得ない事だとは思うのですが。逆に言えばこれは、究極の理想を描いたファンタジーでもあると思うのです。

素晴らしい。

私もこんな世界に生きてみたかった。

つい、そんな事を考えてしまいます。

『悪役が居ない』というのも中々、貴重な要素ではないでしょうか。取って付けたような悪役を使って、主人公側の感情を揺さぶろうというのは、これは非常によく使われる手法でして。もしかしてありきたり過ぎて、ちょっと嫌がられるかもしれない位だと思います。

そういったものを一切使っていない所にも、非常に美学を感じます。

そうでありながら、シーンや会話は時代背景や土地なども考慮されており、非常にリアルで。現実にあってもおかしくないな、というレベルまで突き詰められているんです。

だからこそ、思います。

こんな世界に生きてみたかった。

残念ながら現実世界はこの究極のファンタジーとは縁遠く、騙し合いもあれば裏切りやいやがらせも沢山ある訳なのですが。一瞬でも、物語の世界でもですね。こういった人間関係に触れられることは、これはもう非常にありがたい事だと思うのです。

希望を貰えますよね。まだ私、頑張れるんだなあ、という。

何の事件も問題も抱えていない、等身大の登場人物たちでありながらも、皆が一様にひたむきに、真っ直ぐに努力する芯の強い人間たちで、お互いに信頼し、協力し合って今を生き抜いていく物語。

どうやってこんなの書くんですか。ちょっと私に教えて頂きたい。

……いやあ。岡田惠和先生の脚本だけはですね、分解してみればやはり理解はできるのですが、なんというか追求の度合いが凄くて、ただただ完成度に頭が下がるばかりで。

この神にどうやったら近付けるのかと、私は日夜、翼を鍛えるばかりです。





この度、ようやく最後まで見終わりました。

百聞は一見に如かず。このドラマはですね、まだ見ていないとすれば、一度見ても良いと思います。私が推薦してもどうよという雰囲気はありますが、自信を持ってオススメします。面白いですよ。

もう一回最初から見たら涙が止まらなくなりそうだ。

そんな事を考えながらですね。次の連続テレビ小説が既に始まっているものではありますが。次も面白いものであると良いですね。期待して待っております。

朝ドラは気付けば当たり前にそこにあるので、つい見逃してしまいがちですが。こういうものもちゃんと見て、拾って行きたいなと思う所です。

お後がよろしいようで。



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