浮遊する無名作家の浅慮

妻への誕生日プレゼントが決められない、たった1つの理由。

妻への誕生日プレゼントが決められない、たった1つの理由。



近々、妻の誕生日ということでですね。これは何かひとつ、プレゼントを買って差し上げるべきではないかと。私のような人間でも、人がこの世に誕生したその瞬間くらいは祝ってあげたいものだと、そのような事を考えまして。

やれ商店街を見回すと、浮かび上がるプレゼント候補の商品達。これはうまい棒何本分の価値があるのだろうかと、人知れずそんな事を考える私。

うまい棒は一本10円という安さとキリの良さなもので、これは商品の価格を十分の一するだけで、『うまい棒n本分の価値がある』という事が分かるのですね。どんな時にも使える、安定の商品価格測定方法です。
まあ、それが分かった所で意味など見い出せない、という所は、この方法にもやはり欠点があるという事なのですが。

どのような方法にも、やはり欠点というのはあるものですね。

その欠点を補う方法こそが、プレゼントとして最も最適なのではないか。

プレゼントとはうまい棒何本分の価値があるのだろうか。

思わず、そんな事を考えてしまいました、というところで。


 やはり、プレゼントと言えば日常的に使うものだろうか。

そういえば、今とは違う会社に居た時にですね、同僚の方がこのような事を申しておりました。

「今月、友達の誕生日なんだけどさ。女の子へのプレゼントって、どんなものをあげれば良いと思う?」

唐突にそのような問い掛けをされたものですから、私は思わず、そうだな、ここはやっぱり『ふんどしです』と答えるべきだろうかと。やはり、質問されたからには真面目に答えなければならないのではないかと、考えていたのですが。

実際にふんどしを贈っているかと言えば、勿論そんな事は無いのですが。やはり、どのような贈り物にも漢としての心意気がですね、必要ではないかと思いまして。

ここは、可愛らしいハート型のペンダントを贈る時にもですね、心の中では「私は今、ふんどしをあげている……!」と思うべきではないか。

むしろ、可愛らしいとはふんどしではないか。

そのような事を考えていた所、私が答える前にですね、彼は口を開きまして。

「俺は、食べ物や酒にする。結婚すると思った相手以外に――残るモノを渡したくないからさ」

と、それはスポーツドリンクのCMもかくやと言ったような。爽やかな良い顔で、そのように申し上げました。

あなたね、それ私に質問する事が目的じゃなかったでしょうよと。最初からそれが言いたかっただけで、私の意見なんて何も求めてなかったでしょ、明らかに。

……と、思わず言いたくなってしまったのですが。ここはですね、ツッコんではいけない所です。

もしも私が、彼のキザな部分について「素敵! 抱いて!」と思うような人柄であれば、これは何か意見を言っても良かったのかもしれませんが。残念ながら私は、近所を歩いている、女子小学生の格好をした叔父様にも抱かれたくないという人間でございまして。

結論として、彼のスポドリ・スマイルには敵いませんでしたが。精一杯の笑顔でですね、「そ、そっか」と答えた次第です。



 前項のタイトルについて語る前に、まとまった文章になってしまった件。

ちっとも妻のプレゼントについて話していないという所なのですが、やはりですね。前項の意見も踏まえまして、これは残るプレゼントにしてあげなければならないのではないかと。

一生残る、ブロマイドのような贈り物をするべきではないか。私のブロマイドなど汚くて触る事もできないかもしれませんが、もしかしたらミアンヌのブロマイドなら分からないかもしれません。

あ、ミアンヌというのはですね、クロノ・トリガーというRPGに登場する、敵モンスターの一匹です。

さて、そのような事を考えながらうさぎ跳びで道を練り歩いていた所、やはり生活用品が良いかということで、私はそのようなお店に足を運びました。

するとですね、これは素晴らしい醤油差しということで。価格はそこまで高くないのですが、これはこぼれない醤油差しだという事らしいのです。

醤油差しは使っていると、どうしても容器に醤油が垂れてしまいますよね。すると、食卓で何度も使っているうちに、テーブルが醤油だらけになってしまう。これは、醤油の水溜りではないか。

ピッチピッチジャブジャブランランランにならない醤油差しということで、どうもその内部は『メチャ醤油こぼれない加工』というものがされているらしいのですね。

あ、これは私が加工の名前を忘れてしまったので、今考えたのですが。

これは、どう考えても良い物です。妻も喜んでくれるのではないか。

……しかし、私は思いました。

もしや……これは、妻にもっとTKGを出せという、暗黙の脅しになってしまうのではないか、と。



 妻への誕生日プレゼントが決められない、たった1つの理由。

私は確かにTKG、つまり卵かけご飯が大好きなのですが、だからといって何も誕生日にTKGを推奨したい訳ではありません。

なので、醤油差しは諦めてですね、別のモノを買うことにしました。

そうして歩いていると、次に目に留まったのは、『女性でも軽くて持ち易いフライパン』ということで。

これはですね、フライパンは料理をしているうちに、食材が焦げてくっついてしまう事がありますね。そうならないよう、このフライパンはですね、『メチャ食材焦げ付かない加工』というものがされているようなのです。

あ、これはただのテフロン加工でした。

これは、どう考えても良い物です。……しかし、私は気付きました。

もしや……これは、妻にもっとフライパンとお玉で朝に起こせという、暗黙の脅しになってしまうのではないか。

こうなると、もはや泥沼です。

このカップは、「お前コップ汚いから新しいものくらい買え」という脅しになってしまうのではないか。

このハンカチは、「涙腺決壊する系映画を見た時のために、ハンカチをもっと増やせ」という脅しになってしまうのではないか。

このマフラーは、「いつも頑張ってくれてありがとう」という脅しになってしまうのではないか。

あれ……? もしかすると、誕生日プレゼントとは脅しなのではないか。

むしろ、脅しこそが誕生日プレゼントではないか。

そこまで考えた時、私は「いや、さすがにそれはない」と思いまして。

少し気が動転していたと言いますか、やはりこれは先程の、『メチャ醤油こぼれない加工』からの派生ではないかと言いますか。

何はさておき、そうして私は、妻への誕生日プレゼントが決められなくなりました。

これまでの話を要約すると、「良い物が多すぎて決められなかった」という事になりますね。

日本も良い時代になったものです。



さて、そんな私ですが、散々迷って家に帰った時、妻とこんな話をしました。

「誕生日プレゼント、どんなものが良いかねえ」
「プレゼントはいいから、何か食べに行きたいなー」
「えっ……」

お後がよろしいようで。


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