私は友人との旅行で、札幌まで訪れていた。
毎年大盛況の、札幌雪まつりの前日である。
明日は本当に大丈夫なのかと思えるほどの大雪で、傘を差して歩くのが精一杯で、通りには人が居ない。車でさえ、たまにしか通るのを目にしない。
必死でジャケットを押さえ、私は歩いていた。札幌は地下に潜れば暖房が効いている。寒いが、今だけの辛抱だ。
友人の足元を見詰めながら、私は歩いていた。
ふと、気付いたのである。
ビルの一階、雪の届かない場所に、こう書いてあったのだ。
『足元』に、ご注意ください。
確かに、今日は驚くほどの大雪だ。関東圏に住んでいる私としては、信じられない程に寒い。
黙っているだけで鼻が痛い。耳なんて、とうに感覚を失っていて、少し頭痛がして来る位だ。
この雪の上を、どうにか歩かなければならないのだ。それは確かに、足元には注意しなければならないだろう。
丁寧にも、このビルは呼び掛けて下さったのだ。もしかしたら、足元が滑りやすい場所なのかもしれない。
不幸にも、関東圏に住んでいた私にはどのような靴で挑めば良いのかが分からず、まともに歩くことさえ難しいような、よく滑る靴で来てしまったのだ。
よくぞ呼び掛けてくれたものだと、私は感謝した。足に力を入れ、より足元に注意して、私は歩き始めた。
その二秒後、私の目にはこんなものが飛び込んで来た。
ちょっと待て。
いや、それは無理だろう。常識的に考えて。
足元を見ながら、頭上に注意しろと言うのか。
……そうか。確かに、ビルの上から雪が落ちてくるかもしれない。場合によっては、かなり危険だ。
私は頭上を見た。正直、吹雪が酷すぎて、何がなんだかよく分からない。
どうやって、足元に注意しながら頭上を注意すればいいのか。
左右の目は、それぞれ別々には動かせない。上を見ながら下は見られない。少なくとも、私には無理だ。多くの一般人には無理だろう。
ならば、こう。首を真下に下げて、直後に上げながら。
それを高速でやるのは、どうだろうか。
ブンブンブンブンブン
駄目だ。目眩がする。
……あれ? 友人は一体、どこに行ったんだ。
一寸先は雪。吹雪に隠れて、周囲の状況すらよく分からない。
おい、待て。まだ私が地上に居るのだ。明日は雪祭りで、一緒に行くと約束しただろうが。
どこにいるんだ。
おーい…………。
時は去ること、2013年の札幌駅付近。とあるビルの下で、こんなモノを見つけました。
あまりに雪がひどかったので、親切で置いてくれたのでしょう。でも、そのメッセージのチグハグさに、少し笑ってしまいました。
札幌はたまに行くと、故郷でもないのに懐かしい感じがして好きです。
また、今度はのんびりとしたスケジュールでさっぽろ雪祭りに行きたいなあ……。
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