浮遊する無名作家の浅慮

『ブラック企業』じゃない所に勤める方が難しい、って話。

『ブラック企業』じゃない所に勤める方が難しい、って話。



と思ったのは、現・社畜生活真っ最中だからなのですが。

最近よく『ブラック企業』なんて目にしますが、そんな事言ったら遥か昔から、『ブラック企業』なんてありふれていたと思うのですよ。
最近某なんとか企業で過労死が~なんて言っていますが、これまでは表立って噂されなかっただけで、昔からあった話の筈なんですよね。

だって全体的に見れば、昔の方が労働時間って長い訳ですから……。

まあ、『うちは昔と比べたってずっときついよ!』なんて話もあると思うので、全てが全て現代の方がラクだとは思わないのですが。それでも、『ブラック企業』を探す事より、『ブラック企業』ではない所を探す方が難しいと思うのです。




 賃金制度の根底が危うくなる、『みなし残業』制度。

さて、日本の労働規則には、『みなし残業』という制度があります。そもそも、これが『ブラック企業』を作る上でのかなり重要なルールではないか、と私は感じております。

みなし残業って何ですか? という方のために、簡単なお話を。

『みなし残業制度』というのは、毎月必ず残業時間が出る会社で、その残業時間に該当する賃金を予め払っておく、というスタイルの事です。

例えば、みなし残業代が月5万円だったとして、その5万円を超えるまでは、残業代が付きません。5万円分の残業時間を超えてしまった場合は、差し引いた残業代を会社は払わなければならない、というルールです。
勿論、残業時間がゼロだったとしても、『みなし残業代』は支払われます。

「なんだ、残業が少なければその分得で、残業が多かった時は追加分を貰えるんでしょ? 得じゃん!!」と思うかもしれません。


でもね、そうではないんですよ。


この『みなし残業代』、多くの場合、みなし残業代とは書かれません。『営業手当』とか、『職務手当』といった形で支給されます。
つまり、この手当によって給料の金額が変わっているんですよ。

A氏の給料は、基本給20万の職務手当0円、で月給20万。
B氏の給料は、基本給13万の職務手当7万、で月給20万。

この2つはどちらも月給20万ですけど、決定的に違うんですよね。
A氏は残業時間があればあるだけ支払われる決まりになっていますが、B氏は7万円分は残業代なんです。

こういう書き方ができるってことは……もう、分かりますよね?
『みなし残業』制度を利用する会社は多くの場合、手当を増やす代わり、基本給が安くなるように調整するんですよね。

会社だって、あの手この手で人件費を安くしたい。雇っている人数が変わらなくても、毎年人件費は上がって行くんだから当然です。
だから、『みなし残業』制度を使って、残業代をオールクリアにして、出て行くお金を明確にしたいものなんです。

しかも、この話にはまだオマケが付いてきます。

この『みなし残業』を超えて、多く労働した時の残業代って、会社側は支払わなければいけないルールなんですが。これが実際には支払われていないケースが多い多い。
そりゃ、そうですよね。残業代オールクリアで年間の総支出を計算しているんですから。まあ、会社にとっちゃ厄介な訳ですよ。

中には、残業代を支払う代わりにボーナスを減らすなんていう事をやっている会社もあるとかないとか……ひええ!!



 『代休』の有効期限が無い事によるトラップ。

さて、我々は残業をすると、残業時間としてカウントされますよね。
この残業時間、前述の『みなし残業』とは違う制度で、会社側が定めた場合に限り、『代休』として申請できる、という制度に変わる事があります。

代休とは……労働者が時間外労働をした事後に、『残業手当』の代わりに、所定の休暇として申請する事ができる仕組み。

つまり、8時間労働をした場合に代休を付けられるとすれば、残業8時間分で休日+1となる制度です。

注意したいのは、代休を取得したとしても、時間外労働による割増賃金は払わなければならない、ということ。この点を事前に考慮し、基本労働時間は8時間でも、時間外労働は7時間や7.5時間で代休とするケースもあるようですね。


「残業した分だけ代休が付く……なら良いじゃん!!」となってしまいそうですが、やっぱりそうではありません。


この代休、基本的にはなるべく近い時に取得するのが本来の目的ですが、有効期限は特にない場合が多いです。
ということは、休みたい時に休んでいい=休まなくても良い、となる可能性があります。

代休を取得するのが会社や、他の社員のモラルに反するとかいう、謎の理由で休めない。
そんな、よく分からない状況にあることがあります。
代休が付くのに代休は使えない……有給から消化する事になる。
じゃあ、代休って何なのさ?

※本来は、代休は発生した月に取る事が前提になっています。翌月以降の場合は、まず残業代が支払われ、代休を取得した日にその金額を給料からカットするのがルールです。でも、それが行われているかというのはまた別の話……。

前述の『みなし残業』然り、こういった制度を設けていると、労働者から『ブラック企業』なんて呼ばれてしまう事もよくあるでしょう。

普通より、過酷な労働条件……そうかもしれません。

でも、考えてみて欲しい事がひとつあります。

逆の立場……私達が経営者なら、ルール上OKなんだから使うんじゃないか、って視点があることを忘れてはならないと思います。
そんな、それこそモラルに反する事はしないって?

その残業代や労働時間を支払わない事が、会社の存続を左右するとなったら、どうでしょう。

モラルを優先して、会社を潰して借金を背負う。……とは、中々踏み切れないものですよね。

そんな危うくなるような経営はしない。それができたら最高です。でも、会社の経営なんてどっちに転がるか、いつの時代も分からないものです。

まさに究極の選択ですね。




 会社の都合。

先程も書きましたが、会社にとって人件費というのは、一番重たい支出だと言っても過言ではない訳です。
人が居る分だけ、給料を払わなくてはならない。その給料は、会社の利益から払わなければならない。しかも、その金額は年々上昇していく事はあっても、減らす事は難しい。

そうだとすれば、会社側はルールに定めてある限界ギリギリの所を使って、労働者の賃金を下げたい、となるに決まっている。
まともに給料を払っていたら、会社が黒字にならない可能性も多くあるんです。

だから、「またブラック企業に勤めちゃったよ……」というのは、ちょっと筋違いになるかもしれないんです。

こういうルールである以上、現代では、ブラック企業ではない所を探す方が難しい筈なんですよ。

しかしですね、「そんなの許せない! 過酷な労働時間を強いられるのはおかしいし、給料は正しく払われるべきだ!」という意見が大半になると思うんですが。
正直言うと、これも難しい所です。

前述の通り、会社側は労働者に負担して貰わなければ、会社が存続できない、という可能性もまたあるんです。
皆が皆、労働者の環境が最善になるようにという事だけ考えていたら、今度は働き口が無くなる、という現象が発生するかもしれません。

だから、正しい事が最善だとは限らない、って事もあるわけです。
うーむ……難しい。




しかしながら、労働者の環境は時代を追うごとに良くなって行っているのは事実で(極端な事を言えば、戦争時代と比較すれば一目瞭然でしょう)、このような状況も、やがて良くなって行くかもしれません。

まあ、現代はまだ、リスクを負わなければリターンが得られない世の中なので……安定を望めば報酬は少なく、安定を捨てれば危険が増える。なんだか、嫌な話ですね。
やがて改善されれば嬉しいですけどね……。






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