浮遊する無名作家の浅慮

演技論で、人物に説得力を④ パーソナルヒストリーの落とし穴

演技論で、人物に説得力を④ パーソナルヒストリーの落とし穴




前回の記事にて、行動の理由を追い掛ける事でリアリティが生まれる理由と現象について、説明することができました。
当時の状況を正しく把握し、その行動をする事を前提として、ならばどうして行動したのかを追い掛けていく。このような内容でしたね。

但し、この方法にはひとつ、重要な注意点があります。

それは、『行動に影響を与える内容をきちんと区別しましょうね』という事です。

今回は、そんな話をしていく事が出来ればと思います。




 行動に影響を与える内容って?

■テーマは『嘘』
-------------------------------------------------
○主人公とヒロインが出会う
・過去に振られた彼女の事を忘れる為に、幾つもの女性とコミュニケーションを取っている。
・女性は軽薄なものだと思っている(振られた時の態度)。友人としては接するが、あまり深く介入するべきではないのだ。
・A君は、ノリの軽い青年。携帯電話を片手に、幾つもの女子とメールをしている。
・新しい仕事ということで、A君とBさんが同じ部署に。
・またどうせ、ゆるくてふわっとしていて、およそ男に媚びる事しか考えてない――……と思っている所に、二人の出会い。
・目が覚めるような、毅然とした女性の態度に驚く。
・……地味で、どこか固い雰囲気のある女性だ。
・A君がBさんと初めての出会い。奇遇にも、隣の席に。
・新しい女子だったので、A君はBさんを観察する。
-------------------------------------------------

今回、Bさんに意識を向ける理由として考えてみたものが上記になります。
自分の知っている女性像と少し違う、という事でA君はBさんを注視するようになりました。

この時、つまり登場人物であるA君の詳細を理解していれば良いんでしょ、と誤解する事が非常によくあります。
そしていそいそと紙を取り出し、生年月日と性格についてゴリゴリと書き出し、血液型や家族構成まで書いていったりするのです。

俗に言う『登場人物のパーソナルヒストリーを書き出す』と呼ばれるこの作業ですが……実を言うと、実際の登場人物に何かの影響を与える事は出来ません。

また、パーソナルヒストリーを書き出した事によって、各シーンに影響を(直接的に)与える事は出来ないと思っておいた方が無難です。
『無いよりはあった方が良いよね』程度のモノで、無くても物語そのものに影響は無いのです。
※間接的に影響を与える可能性はあります。



 何故、パーソナルヒストリーは駄目なの?

さて、その理由について解説して行きたいと思います。

登場人物の行動をリアルにする為には、その理由を追い掛けなければならない。それはつまり、シーンその時の価値観で『目的』を追求をしていく、という事ですよね。
今回A君は『過去に彼女から酷い振られ方をした』という経験を持つことで、『Bさんを注視する理由』について、少し触れる事になりました。

でも、これって今回たまたまA君がこうだったからで、別の理由も考えられますよね。
彼女とまともに交際を長続きさせる事が出来なくて、段々と真剣になれなくなった、とか…………そんな可能性も考えられる訳です(=自分の過失)。
そして、どの場合でも『Bさんを注視する』という行動の目的は達成されますね。

現実世界での自分に置き換えてみると分かるのですが、例えばお腹が空いたから飯を食う、その理由は朝食を食べていなかったから等、そういった内容になりますよね。
決して、血液型がAB型だったから、生年月日が1月だったからお腹が空くわけではありません。

・行動の理由となる、『登場人物にとっての当時の状況』を考えていく事で、登場人物にリアリティが生まれる。

このような注釈が必要になるのです。

追い掛けていくべきは、あくまで当時の状況です。自分が信ずるに足る内容を創り出す事で、登場人物の存在を自分自身が信じられるようになっていきます。



但し、行動に関係するパーソナルヒストリー的な側面は、保管しておく必要性がある事もあります。
例えば『女性とのコミュニケーションの経験が少ない』なんて設定が必要になった場合、家族構成を考えていく必要はありますよね。

この視点をひとつ持っておくと、無駄なものを作り込まず、リアリティを追求する事が可能になります。
という事で、『演技論で、人物に説得力を』のコーナーを終わりにしたいと思います。

ぜひ一度、お試しあれ!





← 一つ前の記事
演技論で、人物に説得力を③ 『このキャラだから○○』からの脱却


スポンサーリンク
スポンサーリンク

0 件のコメント :

コメントを投稿