登場人物に説得力を与えよう! という目的のコーナー。
前回の記事では、演技論を語る三人の有名人が登場しました。
これが演劇研究資料なら、これらの有効性について検証する所なのですが! ……今回は物語構造に影響を与える部分についてお話しなければならないので、演技についての細かい説明は後回しにして行きたいと思います。
少しでも眠くならないために。
脚本と演者の関係について。
前回の記事で、脚本について注視する人物が一人だけ居ましたね。そう、ステラ・アドラーです。
彼女の本の中に書かれている事には、こんな内容が紛れ込んでいます。
・リアルな演技を追い掛ける為には、演者が演じる登場人物の立場や行動について、正確に理解している必要がある。
これはイエスかノーかと言われれば、イエスと答える事が出来そうです。
・ということは、与えられた本に描かれた登場人物の行動について、それが信ずるに足るものでなければ、演者がリアルな演技をする事ができない。
逆説的な発想ですが、これもイエスと答えられそうですね。
とても観念的な説明になってしまいました。……リアルを追い掛けるなら、登場人物が起こす行動の理由というものは、書き手側も理解している必要がある、という事です。
現実世界に生きている人間が自身の集中しているものを離れて、『なんとなく』行動を起こす事は極めて稀です(特に、それが対人ともなれば尚更)。
人が『なんとなく』行動を起こす為には、例えば目の前の問題に行き詰まったりとか、集中をフリーにさせる要素がそこにはあったと考えるのが自然でしょう。
従って、その行動には理由があった。「このキャラだから○○した」という事では無かったのです。
例外として、何が好きだとか自身に関わるものは、この限りではない可能性があるともお話しておきます。
行動の理由を、具体的にシーンへと組み込む。
さて、ここまで把握出来た所で、最初に提示したシーンへと戻ってみましょう。■テーマは『嘘』
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○主人公とヒロインが出会う
・A君は、ノリの軽い青年。携帯電話を片手に、幾つもの女子とメールをしている。
・新しい仕事ということで、A君とBさんが同じ部署に。
・A君がBさんと初めての出会い。奇遇にも、隣の席に。新しい女子だったので、A君はBさんを観察する。
・……地味で、どこか固い雰囲気のある女性だ。
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それでは、A君がBさんを観察する理由についてです。
これまでの話から考えましょう。演技論からすれば、行動の理由を追い掛けていくと自然とリアルになる、という現象が発生すると仮定されました。
冒頭で彼はノリの軽い青年だという『キャラ付け』があり、現在はこのようになっています。なんとも軽薄そうな雰囲気がありますね。
『このキャラだから○○』を取っ払い、A君の正体を考えていきましょう。例えば、幾つもの女子とメールをしているのは、自分の事を孤独だと思っているから……だと仮定します。
では、何故孤独だと感じたのか? もしも自分がこの人だとしたら、納得出来るだけの理由を考えてみることにします。
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○主人公とヒロインが出会う
◆過去に振られた彼女の事を忘れる為に、幾つもの女性とコミュニケーションを取っている。
◆女性は軽薄なものだと思っている(振られた時の態度)。友人としては接するが、あまり深く介入するべきではないのだ。
・A君は、ノリの軽い青年。携帯電話を片手に、幾つもの女子とメールをしている。
・新しい仕事ということで、A君とBさんが同じ部署に。
◆またどうせ、ゆるくてふわっとしていて、およそ男に媚びる事しか考えてない――……と思っている所に、二人の出会い。
◆目が覚めるような、毅然とした女性の態度に驚く。
・……地味で、どこか固い雰囲気のある女性だ。
・A君がBさんと初めての出会い。奇遇にも、隣の席に。
・新しい女子だったので、A君はBさんを観察する。
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※『◆』は新しく追加された要素
ただノリが軽い『キャラクター』だったA君が、ちょっと事情を窺う事が出来そうな人へと変貌しました。
事情が分かっているので、今度はあまり軽薄そうには見えませんね。でも、周囲の印象は変わらず、『軽薄なA君』のままです。
これが、『行動原理を追う』事によって得られる効果なのですよ。
次回に続きます。
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