浮遊する無名作家の浅慮

演技論で、人物に説得力を② リアルを追求するということ

演技論で、人物に説得力を② リアルを追求するということ



登場人物に説得力を与えよう! という目的のコーナー。
前回の記事では、登場人物に行動の目的を与える事によって、その人物がリアルに寄っていくよ、というお話をしました。

では、何故そうなるのか。それを疑問に思う事だと思います。

しかし、折角のコラムなので。実践に入る前に、過去の偉人達の教えを見て行きましょう。

過去、それは有名な、ロシアで演劇文化を研究していた一人の演出家様がおりました。
その名をコンスタンチン・スタニスラフスキーと言い、彼の演技論はやがて米国に伝わり、世界的に有名な演技論の土台へと変貌していきます。
そして、能と歌舞伎の時代を抜けた日本にとっても、百年近い時が経った現在でもなお、重要な知識のひとつになっています。



 スタニスラフスキーって?

すっごいざっくりと、歴史の話をしましょう。

スタニスラフスキー氏が生み出した自然的な演技論は、やがてリチャード・ボレスワフスキーとマリア・オースペンスカヤを始めとする人々に伝わり、この二人が1920年頃にアメリカへと亡命した事によって、アメリカにスタニスラフスキーの演技論を基にした『アメリカ実験室劇場』という演技クラスが始まりました。

その後、その生徒であるリー・ストラスバーグが演技論に感動し、1940年頃にストラスバーグ氏が『メソッド演技法』という演技論の主張を始めます。
そうして創られた『グループ・シアター』という集団の下に、後に有名となる演技指導者のサンフォード・マイズナーや、スタニスラフスキーと唯一直に接触した経験を持つステラ・アドラー等が集まり、世界的に有名な演劇集団となっていくのです。

さて、この演技論というのは、『いかに自然的であり、いかにリアルであるか』という内容を追求した演技論だったのですね。
自分の内面的な部分をどんどん掘り下げていく事で、真実の感情を呼び起こす事を目的としていました。
その為に、最も不明確だと言われていた『何故感情が起こるのか』、その真実について、ある意味での解答が現れるまでに至ったのです。

そのせいで役者に過度な負担を掛けたり、アル中になったり、まあ現代で言う所の鬱病みたいな役者さんが多数現れる事になってしまったりしたようですが……まあ、それは余談として。
スタニスラフスキー氏の演技論には、大きく二つのポイントがありました。



 スタニスラフスキーの研究

・即興性の強い演技によって、現実世界に近い登場人物の存在を肯定する。
・但し現実に寄ったものになるため演技にメリハリがなく、明瞭さに欠ける。現実世界に存在しない表現や想像を取り入れる事が出来ない事が、問題ではないかとも言われた。

まあ極端な話、ここで言われている二つのポイントというのは同じで、『リアルを追求した事による有利性と不利性』について話しています。
それが良いやら悪いやらは演劇評論家の方に任せる事として、ここでは技術を学びましょう。

さて、前述で話した『グループ・シアター』ですが、その後演技論として意見が別れ(主にストラスバーグとアドラーによって)対立し、解散してしまいます。
スタニスラフスキーを軸として学んだ人々が、それぞれ演技論から違うものを学び取り、意見を対立させるまでに至ったのです。

○リー・ストラスバーグ
・感情とは、『五感の記憶』によって呼び起こされるものであり、精神を自由にし、感情に対する縛りを解放することで起こされるものだと考えた。
・代表的な演技法を『メソッド演技』と名付ける。リラクゼーション、センソリー(五感の記憶)、アニマル・エクササイズ等が有名。

○ステラ・アドラー
・ストラスバーグの意見に真っ向から対立し、「本に書かれている内容を演者が正確に理解し、それを信じる事が出来れば、感情は自然に起こるもの」だと解いた。
・その為、脚本に描かれている登場人物の分析・理解がメイン。リアルに沿わない訓練はあまり行われなかった。

○サンフォード・マイズナー
・これもまた違う視点で、「関わる相手に集中する事が出来れば、第三者とのコミュニケーションによって感情は生まれる」ものだと伝えた。
・『マイズナー・テクニック』は第三者との関係を可能な限りシンプルにして、対話によるコミュニケーションから良質な演技を獲得する方法。

さて、じゃあ感情って何だろう。どうして生まれるんだ?
ますます分からなくなりそうですね。ほんとすいません。
でも、これを理解しなければ、物語構造における『行動』と『結果』を正確に掴む事が出来ないので、もう少しだけ耐えて、先へと進みましょう。

次回、『感情』を紐解いて行きたいと思います。


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