浮遊する無名作家の浅慮

物語構造の分解③ シーンが成立するために必要な経験のこと


握手


前回の記事では完結できない物語について、少しお話をしました。
そこで今回は、想像している物語をどうしたら、先へと進める事ができるか。そんなお話をしていきたいと思います。



 前回までのおさらい

作家を目指す甲さんは、ある恋愛話のシーンを思い付きました。主人公のA君がヒロインのBさんに告白するシーンを思い描いて、それが大変感動的だと思い、物語を作ってみようと決めました。

何故なら、Bさんは病気で死ぬ事が確定しており、二人の先に未来は無いということが明らかになったからです。
まずはプロットを作ろう。そう思い、紙に書き出して考えてみた所、以下のような内容となりました。

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○二人でデート
・楽しい会話。

○告白のシーン
・A君が、Bさんに告白をする。
・でも、BさんはA君の告白に答えられません。
・その反応を分かっているA君も、答えられる事はないということを理解していました。
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実際、この状態で人に見せようなどと考える人は少ないと思います。
でも、今回は相談した事にしましょう。鬼か。



 甲さん、友達に相談する

甲さんは苦心の末、友人の乙さんに見せてみようと考えました。内容は書いてないけれど、話をすれば少しはヒントを貰えるかもしれない……!
これを友人の乙さんに見せた所、乙さんは手早くテキストをまとめてテーブルに置き、次のような一言を言われました。

「そもそもこれ、何で面白いと思ったん?」
「えっ…………いやだって、俺は感動物語を…………」
「どこに感動すれば良いのかよく分かんね」

根本から否定されてしまい、甲さんはショックを受けました。やっぱり、題材が悪かったのでしょうか。

しかし、そうではありません。ここが重要。いや、今は本当にただの面白くない話ですが。
乙さんはココに書かれている内容だけでは、話の内容が推察できなかっただけなのです。

さて普通、ここで登場する乙さんはただの友人なので、勿論話なんて作ったことがないので、これで終わりになる所なのですが…………
これだと解決の取っ掛かりが無いので、乙さんは少しお話作りが分かる人だった、という体で、この先の会話を書いて行きたいと思います。

「そもそもさあ、病気で死ぬって言ってるけど、これが唐突過ぎない?」
「だってさ、病気なんて突然なるもんじゃん。誰も予想できないから、これで良いんだって」
「A君がBさんを好きな理由も、よく分かんないんだけど」
「えっ…………それはだから、運命を感じて…………」
「だってBさん、病気だったんでしょ? 途中からA君の気持ちに気付いてる雰囲気じゃない? なんで断らんの?」
「えっ…………いや、だってさ…………」
「自分が死ぬこと分かってて、A君に付き合ってるように見えるんだけど。それどうなん? これで良いん?」
「……………………」


 だって、プロットには重要なポイントが書いてないんだもの

ボロカスに言われていますが、ここで挫けてはいけません。
その話の中で、甲さんは幾つかのヒントを得る事が出来ました。

・そもそも、病気で死ぬまでに何があるの?
・A君がBさんを好きな理由が分からない
・Bさんは自分が死ぬ事を分かっていて、A君に付き合ったの?

甲さんは考えました。

「もしかして、こういう問題を解決するのがプロットの役割なんじゃないの…………?」

さて、ここで今までの内容について思い返してみましょう。
ドラマとは、ある登場人物の『行動』と『目的』を主軸に添えて、一連の問題を乗り越えていくまでの流れを捉えたもの、でしたよね。
その内容から言うと、上記の2つのシーンはどうなるでしょうか。

告白のシーン。これは、A君が告白をする、という『行動』がはっきりと描かれています。
『目的』は、Bさんが病気だという事を分かっているけれど、それでも自分の気持ちを伝えたいからだという事でした。
どうも、これはドラマのシーンとして成立する内容のようです。

では、二人でデートするシーンはどうでしょう?
『楽しい会話』とありますが、現実にはA君が何を思って(目的)、どう喋ったのか(行動)が書かれていません。
だから、続く内容がプロットに起こせなかったのです。

たまたま乙さんの発言がファインプレーだった訳ですが、ここで乙さんの質問について考えてみましょう。

・そもそも、病気で死ぬまでに何があるの? ←どんな『行動』と『目的』があったの?
・A君がBさんを好きな理由が分からない ←告白するとしたら、その手前に前提となる何かがあったのでは? いつ、どこで好きになったのか?
・Bさんは自分が死ぬ事を分かっていて、A君に付き合ったの? ←このシーンにおける、ひとつの矛盾点


 その行動を起こすために、手前では何が必要なの?

ここで気にするべきは、乙さんが既に存在するシーンを見て、『その手前の部分に突っ込んできた』という事です。
シーンの後の段階については、全く追求されない。それは、追求するべき内容が提示されていないからです。

つまり、どういうことか。
あるシーンが成立するからには、その手前で確実に『これは経験していなければいけない』という内容がある場合が多いんですね。
少なくとも存在しなければならない経験を、リスト化してみましょう。

・主人公とヒロインが出会っていること
・主人公はヒロインを好きになっていること
・主人公とヒロインの仲が友達以上恋人未満までに成長していること
・主人公がヒロインの病気について理解していること

これが物語を作るための、重要なきっかけとなります。
詳細は次回!




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